
「入れ歯って、寝るときも外したほうがいいんですか?」
診察室でいちばんよく聞かれる質問のひとつです。「みんなどうしてるの?」と世間話のように聞かれる方もいれば、何年も気になっていたことをようやく口にされたような、少し申し訳なさそうな方もいます。
迷うのも無理はありません。調べてみると「外すべき」という記事もあれば、「つけたまま寝るべき」という記事も出てくる。歯医者によって言うことが違う、という声も実際に耳にします。
どちらかが間違っているわけではないんです。入れ歯の形や、残っている歯の状態によって答えが変わる。この記事では、その分かれ目がどこにあるのかを、できるだけ具体的にお話しします。
先に答えを。基本は「外して寝る」です
ほとんどの方は、寝るときに外していただくのが基本です。
ただ、例外もあります。部分入れ歯の形や噛み合わせによっては、当院でも「今は夜もつけておいてください」とお伝えすることがあります。
気をつけてほしいのは、それをご自分で決めないこと。「外すと落ち着かないから」「なんとなく」で夜もつけっぱなし、という方は少なくありません。ですが、そのツケが回ってくるのは何年か先の歯ぐきです。
歯医者によって言うことが違うのはなぜ?
入れ歯には、両立させたいものが二つあります。清潔さと歯ぐきを休ませる時間、それから噛み合わせのバランスです。
夜に外せば、入れ歯も歯ぐきもリセットできる。けれど部分入れ歯の場合、外している間に残った歯へ負担が偏ってしまうことがある。どちらを優先するかは、お口の中を見てみないと決められません。
「外す派」と「つけたまま派」に分かれて見えるのは、それぞれが別のタイプの患者さんを思い浮かべて話しているから。実際のところは、そういうことだと思います。
入れ歯を外して寝たほうがいい4つの理由
1. 押された歯ぐきは、すぐには戻らない
入れ歯の下の歯ぐきは、表面をやわらかい粘膜が覆っています。指で押すとへこんで、離すとじわっと戻る。低反発のマットレスを思い浮かべてもらうと近いかもしれません。
入れ歯をつけている間、この粘膜はずっと押されています。噛むたびに、話すたびに。夕方にはもう、少し沈んだ状態です。
やっかいなのは、外してもすぐには戻らないこと。元の弾力を取り戻すまでには、最低でも数時間かかります。30分や1時間では足りません。
一日の中でそれだけの時間をまとめて取れるのは、やはり寝ている間です。夜に外すのは「休ませる」というより、毎日いったん元の形に戻してあげる時間。そう考えてもらうと、わかりやすいと思います。
戻りきらないまま毎日つけ続けると、押された状態が歯ぐきにとっての「普通」になっていきます。痛みや傷が出やすくなるだけでなく、長く続けば入れ歯を支える骨がやせていく一因にもなると考えられています。土台の形が変われば、入れ歯はだんだん合わなくなります。
入れ歯を作り直すとき、型取りの前に「しばらく外しておいてください」とお願いすることがあるのも同じ理由です。沈んだままの歯ぐきで型を取ると、本来の形とずれてしまうんですね。
[記事] 入れ歯が合わない原因
2. 夜のお口は、菌が増えやすい
入れ歯のピンクの部分は、つるつるに見えて実は細かい凹凸だらけです。部分入れ歯なら、金属のバネのまわりにも汚れがたまります。
しかも、寝ている間は唾液がぐっと減ります。唾液には汚れを洗い流す働きがあるので、それが止まる夜は、細菌やカンジダ(カビの一種)にとって居心地のいい時間帯。汚れた入れ歯を朝まで入れておくと、入れ歯の下の粘膜が赤く腫れる「義歯性口内炎」の原因にもなります。
3. ご高齢の方は、肺炎のことも
年齢を重ねると、寝ている間に唾液が気管へ流れ込みやすくなります。その唾液に細菌が多く含まれていると、誤嚥性肺炎につながることがあります。
日本大学の研究では、85歳以上の方で、寝ている間の入れ歯の装着が重い肺炎のリスク上昇と関連していたと報告されています(約2.3倍)。東北大学が約7万人の高齢者を調べた研究でも、入れ歯を毎日は掃除していない人のほうが、肺炎を経験した人の割合が高い傾向がみられました。
どちらも「関連がある」という結果で、入れ歯だけが原因と言い切れるものではありません。とはいえ、夜は外して清潔にしておく理由としては、十分に重く受け止めていいデータだと思います。
4. 小さな入れ歯は、飲み込んでしまうことがある
1〜2本分の小さな部分入れ歯は、寝ているうちに外れて、そのまま飲み込んでしまうことがあります。金属のバネがついていれば、のどや食道を傷つけるおそれも。小さいものほど、夜は外しておいてください。
それでも「つけたまま寝て」と言われるケース
ここまで読むと、全員外せばいいように思えるかもしれません。でも、そう単純な話でもないんです。
外すと噛み合わせが崩れる、大きな部分入れ歯
部分入れ歯を外すと、上下の歯がほとんど当たらなくなる方や、一部の歯だけがぶつかる方がいます。その状態で一晩過ごすと、残った歯に力が集中したり、歯が少しずつ動いたりすることがあります。歯が動けば、今度は入れ歯のほうが合わなくなってしまいます。
歯ぎしりや食いしばりが強い
寝ている間の歯ぎしりは、起きているときには出せないほどの力になることがあります。入れ歯がないと、その力が残った歯や歯ぐき、あごの関節にそのままかかります。
あごの関節に不安がある
入れ歯を外すと噛み合わせの高さが低くなるため、あごの位置が落ち着かなくなる方もいます。
新しい入れ歯に慣れている途中
作ったばかりの入れ歯は、調整しながら少しずつなじませていくものです。この時期は、つけておく時間をこちらから細かくお伝えすることがあります。
特殊な設計の入れ歯
設計によっては、長く外しておくと困るものもあります。担当の先生から説明を受けているなら、その指示が優先です。
ただ、つけたまま寝る方も、寝る前に一度外して洗うのは欠かせません。洗わずに朝までつけっぱなしでいい入れ歯は、ひとつもありません。
それから、歯ぐきを元に戻す時間が必要なのは同じです。夜につけておく分、昼間のどこかで数時間外せないか。当院でも、その方の生活に合わせて一緒に考えるようにしています。
自分はどっち? タイプ別の早見表
| 入れ歯のタイプ・状態 | 寝るときは | ひとこと |
|---|---|---|
| 総入れ歯 | 外す | あごが不安定なら相談を |
| 1〜数本の小さな部分入れ歯 | 外す | 飲み込む危険があるため |
| 大きな部分入れ歯(外すと噛み合わせが崩れる) | 歯科医師の判断 | つけたまま、と言われることも |
| 歯ぎしり・食いしばりが強い | 歯科医師の判断 | ナイトガードなど別の方法もある |
| 作ったばかりの入れ歯 | 歯科医師の指示どおり | 調整中は特に |
| 飲み込む力が弱っている方・介護が必要な方 | 外す | お口のケアとセットで |
表はあくまで目安です。どこに当てはまるのかはっきりしなければ、次に歯医者へ行ったときに「私の入れ歯、寝るときはどうしたらいいですか」と聞いてみてください。1分で済む質問ですし、それで毎晩の迷いがひとつ減ります。
外した入れ歯の保管方法|どうしまっていますか?
外すことにしたら、次はしまい方です。ここは意外と、自己流の方が多いところです。
乾かさない
入れ歯のプラスチックは乾燥に弱く、乾くと変形やひび割れの原因になります。水か洗浄剤に沈めておいてください。
洗浄剤の前に、ブラシでこする
洗浄剤に入れておけばきれいになる、と思われがちです。でも、ぬめりがついたままだと薬剤が届きません。流水の下で入れ歯用ブラシでこすってから、洗浄剤へ。歯みがき粉は研磨剤で表面に傷がつくので、使わないほうが無難です。
熱湯はかけない
消毒のつもりでも、熱で形が変わることがあります。水かぬるま湯で十分です。
ティッシュに包まない
枕元でティッシュに包んでおいたら、朝ごみと一緒に捨ててしまった。実は、よくある話です。専用のケースに入れてください。
置き場所を決めておく
夜中にトイレへ立ったときに引っかけない場所、ペットの届かない場所に。毎晩同じ場所にしておけば、朝も探さずに済みます。
[記事] 入れ歯洗浄剤について徹底解説
[記事] 入れ歯ケースについて
「外した顔を、家族に見られたくない」
夜に外せない理由をうかがっていくと、最後にこう打ち明けてくださる方がいます。
口元がすぼんで、急に老けた気がする。夫に、妻に、見られたくない。
その気持ちを責めるつもりは、まったくありません。体のためだとわかっていても割り切れないのは、ごく当たり前のことです。
ただ、ひとつだけ正直にお伝えさせてください。沈んだ歯ぐきが戻るには数時間かかるので、お風呂のあいだだけ外す、というやり方では足りないんです。
なので、「夜に外す」はそのままに、見られにくくする工夫をおすすめしています。
- 洗面所ではなく、布団に入ってから外す(ケースは枕元の手の届く所に)
- 朝は起きてすぐ、誰かと顔を合わせる前に入れる
- 身支度のいちばん最初を「入れ歯を入れる」にしてしまう
それでも夜はどうしても、という方は、夕食後から寝るまでなど、別の時間で数時間外せないか考えてみましょう。見た目が気になって外せない、というご相談も遠慮なくどうぞ。そういうお話をうかがうのも、私たちの仕事のうちです。
ご家族の入れ歯をお世話している方へ
飲み込む力が弱ってきた方は、寝ている間の誤嚥が起こりやすくなります。寝る前に入れ歯を外したら、入れ歯だけでなくお口の中も、歯ぐき・舌・頬の内側までやさしく拭いてあげてください。
一方で、昼間は入れ歯をしっかり使うことも大事です。噛み合わせが安定していたほうが、食事のときに飲み込みやすいと考えられているからです。
昼はしっかり入れて、夜はしっかり外して洗う。介護の現場でも、基本はこの切り替えです。夜の数時間は、歯ぐきにとっても大切な休み時間になります。
よくある質問
Q. うっかりつけたまま寝てしまいました。
一晩で大きな問題が起きることは、多くありません。朝外して、入れ歯もお口もよく洗っておいてください。痛みや傷ができていたら、早めに見せてくださいね。
Q. 30分外すだけでも意味はありますか?
洗ってきれいにする、という意味ではあります。ただ、歯ぐきが元に戻るには数時間かかるので、それだけでは足りません。
Q. 昼寝のときも外したほうがいい?
短いうたた寝なら、そこまで気にしなくていいと思います。小さな部分入れ歯の方だけは、横になる前に外しておくと安心です。
Q. 入院するときは?
病院の方針に従ってください。ケースに名前を書いて持っていくと、なくす心配が減ります。
Q. 洗浄剤は毎日使うもの?
毎晩をおすすめしています。ブラシでこするのが基本で、洗浄剤はブラシで落としきれない菌やカビのための仕上げ、という位置づけです。
Q. つけたまま寝るよう言われたけれど、清潔が気になります。
寝る前に一度外して、入れ歯とお口の中をきれいにしてから戻してください。昼間に数時間外せる時間がつくれないかも、担当の先生と相談してみるといいと思います。
最後に
長くなったので、要点だけもう一度。
- 基本は、寝るときに外す
- 押されて沈んだ歯ぐきが戻るには、最低でも数時間。夜はそのための時間
- 大きな部分入れ歯、強い歯ぎしり、あごの不安がある場合は、つけたまま寝るよう言われることもある
- どちらでも、寝る前に洗うのは必須
- しまうときは乾かさず、水か洗浄剤に入れて専用ケースへ
- 外すのに抵抗があるなら、布団に入ってから外すなど、やり方を工夫する
どれが正解かは、人によって違います。迷っているなら、次の受診のときに「私の場合は?」と聞いてみてください。その場で答えられる質問ですし、こちらとしても、聞いていただけるとありがたい質問です。
[記事] 入れ歯の使い方完全ガイド|外し方・保管・寿命まで解説
※本記事は一般的な情報をまとめたものです。お口の状態や入れ歯の設計によって適切な対応は異なり、個人差があります。具体的な判断は、担当の歯科医師にご相談ください。
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入れ歯の作製・使用にともなう一般的なリスク・副作用
・内容によっては自費(保険適用外)となり、保険診療よりも高額になります。詳細は歯科医師にご確認ください。
・入れ歯を固定するため、患者さまの同意を得てから残存歯を削ったり抜歯したりすることがあります。
・使用直後は、口腔内になじむまで時間がかかることがあります。
・事前に根管治療(神経の処置)や土台(コア)や被せ物(クラウン)の処置が必要となることがあります。
・入れ歯を装着していない時間が長いと、残存歯の傾きや損失、歯槽骨(歯を支える骨)の吸収などが起こることがあります。
・咬合が変化したり、固定源である残存歯が削れたり抜けたりした場合は、入れ歯の調整・修理が必要になることがあります。
・金属を使用する入れ歯では、金属アレルギーを発症することがあります。・使用方法などにより、破損することがあります。
・シリコン義歯は数年に1度シリコンの張り替えが必要になります。
・定期的な検診・メンテナンスが必要です
この記事は、まつうら歯科・こども歯科(大阪市住吉区我孫子)の歯科医師が監修しています。個々の症状や治療の適否については、直接ご来院の上ご相談ください。
write:2026.9.30





