
目次
はじめに|歯のことを、ずっと一人で抱えてきた
古い入れ歯

新しい入れ歯

口を開けることが、こわかった。
鏡を見るたびに目をそらし、写真を撮るときは口を閉じ、友人と食事に行っても、笑えなかった。
Kさん(50代・女性)がまつうら歯科・こども歯科に初めてご来院されたのは、そんな長い長い月日を経てのことでした。最後に歯医者を受診されてから、実に10年以上が経っていました。
「また怒られるかもしれない」「こんなになるまで放っておいて、と思われたくない」
そんな気持ちが、ずっと足を遠ざけていたのかもしれません。初診の日、Kさんはチェアに座ったまま、なかなか口を開けようとされませんでした。歯科医師やスタッフに対しても、どこか申し訳なさそうに、恥ずかしそうにしていらっしゃいました。
でも、Kさんがその日、勇気を振り絞って来院してくださったことには、ちゃんと理由がありました。
「もう一度、ちゃんと食べたい。ちゃんと笑いたい」
その一心だったのだと思います。
この記事では、Kさんの症例を通じて、即日総入れ歯とはどういう治療なのか、どんな方に向いているのか、そして治療後に人生がどう変わっていくのかを、私たちが実際に見てきた景色とともにお伝えします。
1. 患者さんのプロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 年齢・性別 | 50代・女性 |
| 主なお悩み | 上下の入れ歯を新しく作りたい |
| 既存の入れ歯 | 10年以上前に作製した上顎総入れ歯・下顎部分入れ歯 |
| 残存歯の状態 | 左下4番(残根)・左下3番 |
| 最終受診 | 10年以上前 |
| 治療内容 | 残存歯抜歯(左下4番・左下3番)・上顎即日総入れ歯・下顎即日総入れ歯 |
2. 初診の日|10年以上ぶりの歯医者
Kさんが受付に姿を現されたとき、その表情はこわばっていました。問診票を書く手も、どこか落ち着かない様子でした。
診察室に案内されても、チェアに横になることへの抵抗感がありありと伝わってきました。口を開けること、歯科医師に口の中を見せること。それ自体がKさんにとって大きなハードルだったのです。
でも、これは決して珍しいことではありません。
長年、歯科を受診できなかった方が初めて来院される際、多くの方がKさんと同じように「見せるのが恥ずかしい」「どう思われるか不安」という気持ちを抱えています。歯の状態が悪ければ悪いほど、その気持ちは強くなります。負い目、羞恥心、そして「手遅れかもしれない」という諦め。
でも、私たちはそのような気持ちを責めることは絶対にしません。
10年ぶりでも、20年ぶりでも、「来てくださった」
それだけで十分です。そこから一緒に考えていくのが、私たちの仕事です。
Kさんが診察室で少しずつ緊張をほぐしてくださり、ゆっくりと口を開けてくださったとき、私たちは心の中でそっと安堵しました。
3. 口腔内の状態と診断
口腔内を確認させていただいたところ、Kさんはすでに10年以上前に作製した上顎の総入れ歯と下顎の部分入れ歯をお使いでした。しかし長年の使用により入れ歯は歯茎に合わなくなっており、噛み合わせや見た目にも大きな問題が生じていました。
残存歯は左下4番(残根)と左下3番の2本のみ。いずれも歯周病の進行により、保存は難しい状態でした。
Kさんのご要望は明確でした。
「総入れ歯を新しく作ってほしい」
ご自身でも、ある程度の状況は理解されていたのだと思います。長年の経過の中で入れ歯が合わなくなっていくのを感じながら、それでも歯医者への足が遠のいていた。だからこそ、「もう新しく作り直すしかない」という覚悟を持って来院されていました。
治療方針について丁寧にご説明したところ、Kさんは静かにうなずかれました。
「わかりました。お任せします」
その言葉の背後には、長年の葛藤と、ようやく決断できた安堵が混じっているように感じられました。
4. 初回カウンセリング当日に抜歯まで進んだ理由
当院では通常、初回のカウンセリング時には治療を行わず、お口の状態の確認とご説明にとどめています。患者さんにしっかりと状況を理解していただき、納得した上で治療を進めていただくためです。
しかし今回のKさんのケースでは、カウンセリング中に「当院で治療することをすでに決めている、できるだけ早く進めたい」というご意志を強くお示しいただきました。
Kさんがどれほどの覚悟を持って、この日ここに来てくださったか——その気持ちを私たちはしっかりと受け取りました。
そこで、十分なご説明とご同意を確認した上で、初回カウンセリング当日に残存歯2本(左下4番・左下3番)の抜歯を実施。さらにそのまま上下顎のアルジネート印象材による概形印象(第一印象)まで進めることにしました。
アルジネート印象とは、ゼリー状の印象材を使ってお口の形を型取りする方法で、即日義歯の最初のステップとなる工程です。これにより、次回来院時から本格的な精密印象・咬合採得・入れ歯製作へとスムーズに移行することができます。
通常よりも一歩先まで進められたのは、Kさんのご意志の強さと、当院の歯科医師・スタッフが連携してその日のうちに対応できる体制を整えているからです。
5. 治療の流れ|当日の詳細記録
初回来院日(カウンセリング・抜歯・概形印象)
カウンセリング・診査・診断
お口の状態を確認し、レントゲン撮影を行いました。残存歯2本の状態、既存入れ歯の状態、歯茎・顎の骨の状態を総合的に診断した上で、治療方針をご説明しました。


残存歯の抜歯(左下4番・左下3番)
歯周病により保存が難しいと判断された左下の残存歯2本を抜歯しました。局所麻酔を使用しているため、処置中の痛みはほとんどありません。
上下顎の概形印象(アルジネート印象)

抜歯後、そのまま上下顎の概形印象を行いました。アルジネート印象材を用いてお口全体の大まかな形を記録します。この工程が、精密な入れ歯製作への第一歩となります。
次回来院日以降(精密印象・咬合採得・試適・完成・装着)
概形印象をもとに咬合床付きトレーを製作し、より精密な型取り(精密印象)と噛み合わせの記録(咬合採得)を行いました。

当院では、入れ歯の精度を高めるために噛み合わせの採得を2回に分けて行っています。
1回目の咬合採得では、前歯のトライフィット(TF)を行い、歯茎に対する前歯の位置関係を丁寧に確認します。
2回目の咬合採得では、前歯に加えて臼歯(奥歯)のトライフィット(TF)も行い、上下の噛み合わせ全体のバランスを精密に記録します。

この2段階の咬合採得を経ることで、見た目の自然さだけでなく、実際に噛んだときの安定感・バランスにもこだわった入れ歯を製作することができます。その後、試適(歯並びの確認)を経て入れ歯が完成し、装着となりました。
古い入れ歯

装着した新しい入れ歯

6. 即日総入れ歯とは?通常の入れ歯との違い
通常の総入れ歯の流れ
一般的に、総入れ歯の治療は次のような流れをたどります。
- 抜歯
- 抜歯後の歯茎が治癒するまで待機(目安:約2〜3ヶ月)
- 型取り・噛み合わせの記録
- 歯科技工士による入れ歯の製作
- 完成・セット・調整
この流れでは、抜歯から入れ歯が完成するまでの間、歯がない状態で数ヶ月過ごさなければなりません。食事がしにくいのはもちろん、「その間、外に出られない」「人に会えない」という声を患者さんから多く聞きます。
即日入れ歯とは
即日入れ歯(即時義歯)とは、抜歯と同時進行で入れ歯の製作を進め、歯がない期間を最小限に抑える治療法です。
当院では、抜歯当日から型取りのステップを開始し、できる限り早期に入れ歯をお渡しできる体制を整えています。歯科医師と歯科技工士が密に連携することで、この短期間での対応が可能になっています。
即日入れ歯のメリット
- 歯がない期間が最小限:早期に入れ歯が入るため、生活への影響が少ない
- 見た目の心配がない:入れ歯がない状態で人前に出る不安がない
- 食事への影響が最小限:できるだけ早く食事ができる状態を取り戻せる
- 心理的な負担が少ない:「歯なしで過ごす」つらさを避けられる
- 抜歯後の保護:入れ歯が傷口を覆い、外部刺激から守る効果もある
知っておきたいデメリット・注意点
- 抜歯後、歯茎の形が変化するにつれて入れ歯と歯茎の間に隙間ができることがある
- 歯茎の治癒にともない、調整(リライン)が必要になる
- 装着から3ヶ月以降に、歯槽骨の吸収に対応したリライン処置が必要になるケースが多い
当院では、義歯装着後1年以内の調整・リライン・修理の費用を治療費に含めています。完成後も安心して通っていただける体制を整えています。
7. 入れ歯が完成した瞬間
入れ歯がセットされた瞬間のことを、私たちスタッフは今でもはっきりと覚えています。
Kさんはチェアに座ったまま、口元に手を当て、何度か唇を動かしました。そして鏡を手に取り、しばらくご自分の顔を見つめていました。
それからゆっくりと、笑いました。
ものすごく、嬉しそうに。
「こんなに違うんですね」と、声が少し震えていました。10年以上使い続けた上顎の総入れ歯・下顎の部分入れ歯とは別次元の、自然な口元が鏡の中に映っていました。長い間、隠し続けてきた口元が、その日を境に変わった瞬間でした。
「来てよかった」
Kさんがそうおっしゃってくださったとき、私たちも胸が熱くなりました。10年以上、ずっと一人で抱えてきたものを、今日ようやく下ろすことができた。そういう瞬間に立ち会えることが、この仕事をしていてよかったと感じる瞬間です。
8. セット後の調整来院|「ものすごく調子がいい」
入れ歯をセットしてからしばらくして、Kさんは調整のためにご来院くださいました。
どんな入れ歯でも、セット直後は歯茎との密着度の変化や、噛み合わせの微調整が必要です。最初は少し「当たる感じ」や「外れる感じ」があることもあり、これは正常な経過です。当院では装着後の調整を丁寧に重ねることで、フィット感と噛みやすさを整えていきます。
ところがKさんは、来院されるなり開口一番、こうおっしゃいました。
「ものすごく調子がいいです。食事もしやすくて、びっくりしました」
口元に笑みを浮かべながら話すKさんの表情は、初診の日とはまるで別人のようでした。あの日、うつむき加減に受付に立っていた方と同じ人とは思えないほど、明るく、軽やかな雰囲気をまとっていらっしゃいました。
「まだ慣れないこともあるけれど、毎日少しずつ上手に使えるようになっています」と話されていました。食事が楽しくなった、人と話すのが怖くなくなった——そんな言葉も聞かれました。
9. 口から始まった、人生の再起
その後のKさんは、驚くほど前向きに変わっていかれました。
入れ歯が新しくなったことで、長年抱えてきた「口のコンプレックス」が解消されたのでしょう。表情が変わり、声のトーンが変わり、行動が変わっていきました。
もっとも印象的だったのは、口腔内のケアをきっかけに、体全体のメンテナンスにも関心を持ち始められたことです。
「ああ、口って、人の入口なんだな」と改めて感じます。口から食べ物が入り、口から言葉が出る。笑顔も、話しかけることも、全部口から始まります。
口の悩みが解消されたことで、Kさんは「もっと楽しく生きよう」というモチベーションを取り戻されたのだと思います。
来院するたびに明るくなっていかれるKさんを見ていると、歯科治療というのは単に歯を治すことではないと、そう確信します。その人の日常を、自信を、そして未来への意欲を取り戻すことでもある。
Kさんは今も定期的にメンテナンスにお越しくださっています。
10. 即日入れ歯が向いている方・向いていない方
こんな方に即日入れ歯は特に向いています
- 歯がない期間をできるだけ短くしたい方:仕事や社会生活の都合で、早期に入れ歯を入れたい
- 古い入れ歯を新しく作り替えたい方:合わなくなった入れ歯を一新したい
- 複数の歯を抜歯する必要がある方:抜歯本数が多いほど、即日入れ歯のメリットは大きくなる
- 心理的な負担を減らしたい方:「歯なしで過ごす」という精神的つらさを避けたい
- 早く治療を進めたい意志がはっきりしている方:Kさんのように初回から強い意志をお持ちの方
こんな方はまず相談を
- 顎の骨の状態や全身疾患(糖尿病・骨粗鬆症など)によっては、即日対応が難しいケースもあります
- 抜歯の本数・部位・出血の状況によって、治療の工程は変わります
- インプラントや他の治療法と組み合わせて検討したい方
いずれにせよ、まずはご相談いただくことが最初の一歩です。お口の状態を確認した上で、最適な治療の流れをご提案いたします。
11. よくあるご質問
Q. 初回カウンセリング当日に抜歯や型取りはしてもらえますか?
通常、初回カウンセリング時には治療を行わず、お口の状態の確認とご説明を行います。ただし、今回のKさんのように「すでに当院で治療することを決めており、早く進めたい」という強いご意志がある場合は、十分なご説明とご同意を確認した上で、当日の抜歯・概形印象まで対応できることがあります。詳しくはカウンセリング時にご相談ください。
Q. 10年以上前の入れ歯をそのまま使い続けていても大丈夫ですか?
長期間使用した入れ歯は、歯茎の変化により徐々に合わなくなっていきます。合わない入れ歯を使い続けると、顎の骨の吸収が進んだり、噛み合わせが悪化したりするリスクがあります。「なんとなく合わない気がする」と感じている方は、一度ご相談ください。
Q. 抜歯後、リラインは必要ですか?
はい。抜歯後は顎の骨(歯槽骨)の吸収が起こるため、義歯装着から3ヶ月以降にリライン(入れ歯の内面を歯茎の形に合わせて修正する処置)が必要になります。当院では装着後1年以内のリラインを治療費に含めていますので、安心してご来院ください。
Q. 入れ歯はすぐ慣れますか?
個人差がありますが、多くの方が数週間〜数ヶ月かけて慣れていかれます。最初は「異物感」や「発音のしにくさ」を感じることもありますが、定期的な調整を重ねながら、使いやすい状態に整えていきます。
Q. 10年以上歯医者に行っていないのですが、大丈夫ですか?
大丈夫です。久しぶりの来院であっても、責めたり怒ったりすることは一切ありません。まず現在のお口の状態を一緒に確認するところから始めましょう。「来てくださった、その日が、スタートです」という気持ちで、いつでもお待ちしています。
12. まつうら歯科・こども歯科からのメッセージ
「恥ずかしくて来られなかった」「どうせもう手遅れだと思っていた」
そんな言葉を、私たちはこれまで何度も耳にしてきました。
でも、どうかこれだけは知っておいてください。
来てくださった、その日が、スタートです。
歯の状態を見て怒る歯科医師はいません。長年受診できなかった事情は、人それぞれです。大切なのは、今日ここに来てくださったこと。その一歩を踏み出してくださったこと。
Kさんが初診の日、恥ずかしそうに口を開けてくださったあの瞬間から、すべてが始まりました。そしてKさんは今、新しい入れ歯で明るく笑っていらっしゃいます。体のメンテナンスにも前向きになり、生活そのものが変わっていきました。
口の健康は、全身の健康につながります。そして全身の健康は、毎日の意欲とつながっています。
まつうら歯科・こども歯科では、歯科医師30分+歯科技工士30分、計60分の入れ歯無料相談を実施しています。医学的な視点と、入れ歯の構造・設計・素材の両面からわかりやすくご説明します。他院で作った入れ歯のご相談も歓迎です。無理に治療を進めることはありません。ご相談だけでも、どうぞお気軽にいらしてください。
あなたのご来院を、心よりお待ちしています。
治療情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 年齢・性別 | 52歳・女性 |
| 治療内容 | 残存歯抜歯(左下4番・左下3番)/上顎即日総入れ歯・下顎即日総入れ歯 |
| 治療回数 | 4回(うち調整2回) |
| 通院目的 | 入れ歯を早く作ってほしい |
| 既存の入れ歯 | 10年以上前に作製した上顎総入れ歯・下顎部分入れ歯 |
| 費用 | 561,000円(上顎 275,000円・下顎 275,000円)※抜歯費用を含むトータル費用です |
| アフターケア | 義歯装着後1年以内の調整・リライン・修理費用を治療費に含む |
| リスク・副作用 | 入れ歯が割れることがある/長期使用で人工歯が咬耗する可能性あり/抜歯後の骨吸収により3ヶ月以降のリラインが必要/装着直後は慣れるまで時間がかかることがある |
入れ歯無料相談のご案内|大阪入れ歯専門外来
入れ歯でお悩みがある方は、一度状態を確認させてください。
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入れ歯の作製・使用にともなう一般的なリスク・副作用
・内容によっては自費(保険適用外)となり、保険診療よりも高額になります。詳細は歯科医師にご確認ください。
・入れ歯を固定するため、患者さまの同意を得てから残存歯を削ったり抜歯したりすることがあります。
・使用直後は、口腔内になじむまで時間がかかることがあります。
・事前に根管治療(神経の処置)や土台(コア)や被せ物(クラウン)の処置が必要となることがあります。
・入れ歯を装着していない時間が長いと、残存歯の傾きや損失、歯槽骨(歯を支える骨)の吸収などが起こることがあります。
・咬合が変化したり、固定源である残存歯が削れたり抜けたりした場合は、入れ歯の調整・修理が必要になることがあります。
・金属を使用する入れ歯では、金属アレルギーを発症することがあります。・使用方法などにより、破損することがあります。
・定期的な検診・メンテナンスが必要です
本記事は患者さまのご同意を得た上で掲載しています。治療結果は個人のお口の状態により異なります。 この記事は、まつうら歯科・こども歯科の歯科医師が監修しています。
write:2026.6.15



