![[症例]睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療 30代男性](https://matsuura-dent.com/column/wp-content/uploads/2026/09/3764f2f22c086ee75e53f16ecc42e111-1.png)
【症例で解説】睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療で、いびき・無呼吸・日中の眠気はどう変わったか

「内科で睡眠時無呼吸症候群と診断されたので、マウスピースを作ってほしい」
こう言って来院される患者様は、当院でも決して少なくありません。マウスピース(スリープスプリント)を使うことで、いびきや無呼吸、日中の眠気は実際にどこまで改善するのか。今回は、当院で治療を行った30代男性の症例をもとに、問診票のデータを交えながらリアルな変化をご紹介します。
この方は、内科での睡眠ポリグラフィ検査(PSG)の結果、RDI(呼吸障害指数)が15.9という数値が出て、睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断され、マウスピース製作を目的に当院を受診されました。装着前は「いびきは時々あり、いびきの自覚がある」「無呼吸の自覚はなかったものの、検査データ上は無呼吸がみられる」「熟睡感が悪い」「寝起きが悪い」といった状態で、日中の眠気も気になっていました。マウスピースを実際に使い始めてから、これらの症状はどう変わったのでしょうか。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、どんな病気か
睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に気道(空気の通り道)が狭くなったり塞がったりすることで、呼吸が止まる、あるいは浅くなることを繰り返す病気です。一晩に何度も呼吸が止まることで、脳や体が十分に休めず、慢性的な睡眠不足の状態に陥ります。
代表的な症状は次のようなものです。
- 毎晩の大きないびき
- 睡眠中に呼吸が止まっている(自覚・他覚)
- 熟睡感がなく、朝起きても疲れが取れない
- 起床時に口が乾いている、喉が痛い
- 日中に強い眠気を感じる
今回の症例の患者様も、問診票を確認すると「いびきは時々あり、自覚もある」「無呼吸の自覚はないが、検査データでは無呼吸がみられる」「熟睡感が悪い」「寝起きが悪い」「起床時に口が乾いている」といった項目にほぼ当てはまっており、典型的なSASの状態がそろっていました。無呼吸そのものはご本人が眠っている間の出来事のため、自覚しにくいというのもSASの特徴のひとつです。
重症度は、無呼吸・低呼吸の回数を1時間あたりで示すAHI(無呼吸低呼吸指数)やRDI(呼吸障害指数)という数値で判断されます。今回のRDI15.9という数値は、軽症と重症の中間にあたる中等症の入り口に位置する値です(詳しい重症度分類は後述します)。
SASの原因や全身への影響について、より詳しく知りたい方は睡眠時無呼吸症候群(SAS)の基礎知識ページもあわせてご覧ください。
マウスピース(スリープスプリント)治療とは
SASの治療には大きく分けて、CPAP(シーパップ)療法、外科手術、そして歯科で作製するマウスピース(口腔内装置・スリープスプリント)による治療の3つがあります。
マウスピース治療は、下顎を上顎よりもやや前方に出した位置で固定する装置を就寝時に装着することで、舌の付け根が喉の奥に落ち込むのを防ぎ、気道を広く保つという仕組みです。CPAPのようにマスクや機械を使わないため、出張先や旅行にも持ち運びやすく、装着時の違和感が少ないというメリットがあります。一方で、重症例に対しては効果が限定的になることもあり、どの治療が適しているかは検査結果をもとに医科と相談しながら決めていくことになります。
軽症から中等症のSASであれば、マウスピース単独でもいびきや無呼吸の軽減が期待しやすいとされており、今回の患者様のケースもこの範囲に該当していました。
マウスピース(OA)とCPAP、どちらが向いているのか
SASの重症度は、無呼吸・低呼吸の回数を1時間あたりで示すAHI(無呼吸低呼吸指数)によって、次のように分類されます。
- 5未満:健全
- 5~15未満:軽症
- 15~30未満:中等症
- 30以上:重症
この数値をもとに、マウスピース(口腔内装置・OA)とCPAPは、おおよそ次のように使い分けられます。
- 口腔内装置(OA):AHIが5~20程度の、軽度から中等度のOSA(閉塞性睡眠時無呼吸)が主な対象
- CPAP:AHIが20を超える重度のOSAが主な対象
つまり、口腔内装置は「CPAPを使うほどではないが、何らかの治療は必要」という軽度~中等度の患者様に向いている治療法だということです。また、CPAPの装着が続かず途中でやめてしまう「CPAPドロップ症例」の中では、もともとのCPAP圧が8.0cmH2O未満と低かった方ほど、OAへ切り替えた際に効果が出やすい傾向があります。マウスピースとCPAPのメリット・デメリットをより詳しく比較したい方は、他の治療法との比較ページもご参照ください。
さらに、口腔内装置の効果には個人の身体的な特徴も影響します。一般的に、次のような方は効果が出やすいとされています。
- やせ型である
- 年齢が若い
- 女性である
- 首まわり(頸部周囲)が短い
- PSG所見でAHI15未満の軽度OSAである
- CPAP圧が8.0cmH2O以下
反対に、次のような方は口腔内装置の効果が限定的になりやすいとされています。
- 肥満型である
- 高齢である
- 男性である
- 首まわりが長い
- PSG所見でAHI30を超える重度OSAである
- CPAP圧が10.5cmH2O以上
今回ご紹介した患者様は30代・RDI15.9と、軽度から中等度の範囲に該当しており、こうした「口腔内装置が効果を発揮しやすい」条件に比較的近い属性でした。もちろん、これらはあくまで統計的な傾向であり、実際にどちらの治療が適しているかは、PSG検査の結果や医科での診断をもとに、歯科・内科が連携しながら判断していく必要があります。
装置の調整について:前方移動量はどう決めるのか
マウスピースの効果を左右する重要な要素のひとつが、下顎をどれだけ前方に出す位置で固定するか、という「前方移動量」の設定です。
下顎を前方に出せば出すほど、舌の付け根が引き出される形になり、気道(咽頭)は広がりやすくなります。単純に考えれば、前方移動量は多いほど効果が高いようにも思えます。しかし、前方に出しすぎると、今度は顎関節に負担がかかり、顎関節痛や歯の違和感といった症状が出やすくなるというデメリットもあります。効果と負担はトレードオフの関係にあり、ただ最大限に前方へ出せばよいというわけではありません。
今回の患者様の場合、下顎を無理なく動かせる最大の位置まで前方に出したところ、9mmの前方移動が可能であることが確認できました。ただし、いきなり最大位置で装置を作ってしまうと、顎関節や筋肉への負担が大きくなり、痛みや違和感で装着自体が続かなくなるリスクがあります。
そこで当院では、最大前方位置(9mm)の7割にあたる6.3mm(9mm×0.7=6.3mm)を初期設定の前方移動量として採用しました。最初から目一杯前方に出すのではなく、まず7割程度の無理のない位置からスタートし、装着後の経過や効果を見ながら少しずつ調整していくという考え方です。
この「最大値ではなく、まず7割程度から」という設定は、気道を十分に確保しながら、顎関節痛や歯の違和感といった副作用のリスクを最小限に抑えるための工夫です。実際にこの症例でも、この設定で無呼吸やいびきの改善がみられており、必ずしも最大限に前方へ出すことだけが正解ではないことがわかります。
大切なのは、マウスピースは装着して終わりではないということです。装着開始から数週間後に、いびきや無呼吸の改善具合、そして顎関節や歯に痛み・違和感が出ていないかを確認し、必要に応じて下顎の前方移動量を少し足したり、逆に戻したりしながら微調整していきます。効果が十分に出るポジションと、顎関節や歯に負担がかからないポジションの両方を満たす位置を探っていく、いわば「ちょうどいい場所」を見つけるための作業が、装着後にも続いていくということです。
今回の症例でも、この経過観察と調整のプロセスを経て、いびき・無呼吸・熟睡感・日中の眠気といった項目で改善がみられました。マウスピース治療は、作って渡したら終わりではなく、患者様の反応を見ながら一緒に仕上げていく治療だと言えます。
なお、今回ご紹介した患者様は、最初に設定した位置(6.3mm)でしっかりと効果が出たケースでした。ただし、これはあくまで一つの症例であり、すべての患者様が同じように一度の調整で済むわけではありません。顎の骨格や気道の形、日々の生活習慣などによって、効果が出るまでに何度か前方移動量を調整し直す方もいらっしゃいます。調整の回数には個人差があるということも、あわせてお伝えしておきたいポイントです。
なぜ、マウスピース作製の前に虫歯治療が必要なのか
ここが今回の症例で特にお伝えしたいポイントです。
患者様は2年ほど歯科医院から足が遠のいていたとのことで、来院時にはいくつか虫歯が見つかりました。ご本人としては「マウスピースだけ早く作ってほしい」という気持ちが強かったのですが、当院ではまず虫歯治療を優先することをご説明し、ご了承いただいた上で治療を進めました。
理由は単純で、マウスピースは歯型を精密に採って、一人ひとりの歯並びや噛み合わせに合わせて作る装置だからです。もし虫歯を治療せずに先にマウスピースをセットしてしまうと、その後で虫歯治療を行った際に歯を削ることで歯の形が変わってしまい、せっかく作ったマウスピースが入らなくなってしまいます。だからこそ、治療の順番としては先に虫歯を治し、歯の状態を安定させてからマウスピースの型取りに進む必要があるのです。
こうした理由から、当院ではSAS治療を目的に来院された患者様であっても、まずお口の中全体の状態を確認し、必要な治療を済ませてからマウスピースの型取りに進むという流れを基本にしています。急いでいる患者様のお気持ちはよくわかりますが、この一手間が、結果的に長く安心して使える装置につながります。むし歯治療の詳しい内容はむし歯治療のページでご紹介しています。
治療前と治療後、問診票で見えた変化
虫歯治療を終えたあと、患者様の歯型に合わせてマウスピースを作製し、装着を開始しました。当院では装着後も定期的に問診票をお渡しし、症状の変化を記録していただいています。今回の患者様の回答を治療前後で比べると、次のような変化が見られました。
いびきについて 治療前は「時々あり、いびきの自覚がある」でしたが、装着後は「小さくなった」との回答に変化しました。
無呼吸について 治療前、ご本人には無呼吸の自覚はありませんでしたが、検査データ(PSG)ではRDI15.9という形で無呼吸が確認されていました。装着後の問診票では、無呼吸に関する自覚症状の項目も改善方向の回答となっています。
熟睡感・起床時の状態 治療前は熟睡感・寝起きともに悪く、起床時に口の乾きを感じていましたが、装着後は「よく眠れるようになった」との回答が得られています。
日中の眠気(エプワース眠気尺度) 日中の眠気を数値化するエプワース眠気尺度(ESS)でも、装着後は「ほとんど眠くならない」「まれに眠くなる」に該当する項目が中心となり、装着前と比べて日中の眠気が軽減している様子がうかがえました。
一方で、副作用として噛み合わせのくさび感や口の乾きといった回答もあり、こうした点は今後の調整で経過を見ていく必要があります。なお、体調や体重、血圧については装着前後で変化なしとの回答で、全身面での大きな悪影響は見られませんでした。
問診票の数値以上に印象的だったのは、患者様ご本人の「以前より眠れるようになった」というひと言でした。データ上の改善はもちろんですが、こうした実感のこもった言葉こそが、治療がうまくいっているかどうかを一番よく表しているのかもしれません。
保険適用と費用の目安
SAS用マウスピースは、医科でSASの診断を受け、紹介状(診療情報提供書)を持参した場合、健康保険が適用されます。3割負担の場合、検査料や調整料を含めて総額1万円台から2万円台程度が目安です。診断書がなく、いびき対策のみを目的とする場合は自費診療となり、医院によって数万円から十数万円程度と幅があります。今回の患者様は内科での診断書・検査データがあったため、保険適用でマウスピースを作製しています。
ここで注意しておきたいのが、歯科でSAS用のマウスピースを作製するには、原則として医科での診断書(診療情報提供書)が必要になるという点です。歯科だけの判断でマウスピースを保険診療として作ることはできず、必ず医科での睡眠検査・診断というステップを経る必要があります。「いびきが気になるけれど、まだ医療機関を受診したことがない」という方も少なくありませんが、その場合はまず医科でSASの検査を受けていただくところから始まります。
当院では、まだかかりつけの医療機関がない患者様に向けて、提携している内科をご紹介することも可能です。診断書がない状態でご相談いただいても対応できますので、いびきや日中の眠気が気になる方は、まずは歯科の窓口としてお気軽にご相談ください。より詳しい治療の流れは睡眠時無呼吸症候群(SAS)のページでもご確認いただけます。
まとめ:マウスピース治療で、いびき・無呼吸・日中の眠気はここまで変わる
今回ご紹介した症例では、いびきは「時々あり、自覚もある」状態から「小さくなった」へ、熟睡感・寝起きは「悪い」状態から「よく眠れるようになった」へ、日中の眠気もエプワース眠気尺度の数値上で軽減がみられました。何より、患者様ご本人から「以前より眠れるようになった」という言葉が聞けたことが、この治療がしっかり効果を発揮していた何よりの証拠だと感じています。
もちろん、今回の変化は下顎の前方移動量を最初から慎重に7割程度に設定し、装着後も経過を見ながら微調整を重ねた結果でもあります。効果を出すポジションと、顎関節や歯に負担をかけないポジションの両方を探っていく作業は、装着して終わりではなく、装着してからが本番とも言えます。また、この方は虫歯治療を先に済ませてから型取りを行っており、こうした土台づくりも、長く安定して使える装置につながった要因のひとつです。
いびき、無呼吸の自覚、日中の眠気に心当たりがあり、内科でSASと診断された方、あるいはこれから検査を検討されている方は、マウスピース治療でどこまで改善が期待できるか、まずはお気軽にご相談ください。
睡眠時無呼吸症候群マウスピース作成のご案内
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このような症状がある方はご相談ください。
電話:06-6698-6480
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この記事は、まつうら歯科・こども歯科(大阪市住吉区我孫子)の歯科医師が監修しています。個々の症状や治療の適否については、直接ご来院の上ご相談ください。
本症例は患者様の了解を得て、掲載しております。
write:2026.9.14


